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病院で働く人の多くは医者でも看護師でもない。経営、事務、IT、施設の運営を支えるプロが大勢いる

医療・介護(病院経営・介護事業・医療法人)

医療・介護の業界は、病院、診療所、薬局、介護施設、訪問介護などを運営し、病気やけがの治療と、高齢者や障害のある人の生活を支える業界です。お金の面から見ると、2023年度の国民医療費は48兆915億円、2024年度の介護費用は11兆9,381億円で、どちらも過去最高でした。この業界には医師、看護師、介護福祉士などの資格職だけでなく、病院の経営企画、医療事務、病院の情報システム、介護施設の施設長、介護会社の本部スタッフなど、資格がなくても就ける仕事もたくさんあります。収入のほとんどは国が決める診療報酬と介護報酬で決まるため、値段を自由に決められない、ほかの業界とは違うしくみで動いています。高齢化で需要が増える一方、人手不足と赤字の病院の増加という大きな課題を抱えた業界です。

平均年収の目安職種によって大きく異なる看護師約525万円、介護福祉士を持つ介護職員約420万円介護職員で300万〜450万円前後、病院の事務職で300万〜600万円前後、医師で1,000万円以上
なるまでの難しさ★★★★★介護の現場は人手不足のため、資格や経験がなくても就職しやすく、働きながら資格を取ることもできます。一方、医師、看護師、薬剤師などになるには国家試験が必要です。病院の経営企画や大手の医療関連企業、国立病院機構などの事務職は採用人数が少なく、倍率が高めです。
決めどき文系・理系どちらでも

医師・看護師などの資格職は高校2〜3年で学部を決めるとき。病院経営や介護会社の本部職は大学3年の就職活動。介護職は高校卒業後すぐにも始められる

医療・介護(病院経営・介護事業・医療法人)の業界マップ

国立病院をまとめて運営する独立行政法人が載っています。民間の病院では担いにくい医療も行います。

公的な病院グループ

国が作った全国の病院をまとめて運営します。

となりの業界

押すと、会社図鑑でその会社のくわしい解説が見られます。

どんな職種がある?

押すと、その職種の仕事内容・必要な力・キャリアが見られます。

医療・介護(病院経営・介護事業・医療法人)の年収と昇進の流れ

一般職員(医事・総務・介護職員)250〜380万円
入職1〜4年、22〜26歳

受付、会計、介護などの現場の仕事を覚えます。担当業務を一人でこなせるようになり、資格を取ると主任などに進みます。

主任・係長・ユニットリーダー350〜480万円
入職5〜10年、27〜35歳

チームのまとめ役として、後輩の指導や業務の改善を担当します。病院では経営企画や本部の部署に移る人もいます。

課長・副施設長450〜620万円
入職10〜15年、33〜42歳

医事課や総務課、介護施設の運営の責任者として、部署全体の数字と人を管理します。

事務部長・施設長550〜800万円
入職15〜20年、40〜50歳

病院の事務部門全体や、介護施設全体を任されます。経営の判断や、職員の採用、行政への対応を担います。

事務長・法人本部長・理事700〜1,200万円
50歳〜

病院や法人全体の経営を、院長や理事長と一緒に担います。大きな医療法人では、グループ全体の戦略を決める立場になります。

年収は目安です。会社や地域、本人の働き方で大きく変わります。

働き方で何が違う?

医療法人の病院法人によって差が大きい(事務職は300万〜700万円前後が多い)

日本の病院の約7割は医療法人が運営しています。2025年3月末の病院8,044施設のうち5,617施設が医療法人です。地域に一つの病院を持つ法人から、全国に病院や介護施設を持つ大きなグループまでさまざまです。理事長は原則として医師か歯科医師で、経営の判断が速いのが特徴です。

良いところ経営の工夫が反映されやすく、若いうちから任されることもある

大変なところ法人ごとに待遇の差が大きく、経営が厳しい法人もある

国・公立・公的病院(国立病院機構、自治体病院、日赤など)公務員や各法人の給与体系に準じる

国立病院機構や大学病院、都道府県や市町村が運営する自治体病院、日本赤十字社や済生会、厚生連が運営する公的病院などです。救急や高度な医療、へき地の医療など、採算をとりにくい医療も担います。自治体病院の職員は地方公務員として採用されることが多いです。

良いところ安定していて、高度な医療や地域の中核の医療にかかわれる

大変なところ異動がある、公的な手続きが多い、赤字の病院も多い

社会福祉法人(特別養護老人ホームなど)法人によって差がある(介護職員の平均は月33.8万円、2024年9月)

特別養護老人ホームなどを運営する非営利の法人です。地域の福祉の中心として、介護だけでなく、障害のある人や子どもの支援をしている法人もあります。税金の優遇がある一方で、経営の透明性が求められます。

良いところ地域に根ざして働ける、福祉の幅広い経験が積める

大変なところ人手不足が深刻、報酬改定の影響を受けやすい

株式会社の介護事業者上場の介護会社で単体平均400万〜550万円前後(チャーム・ケア468万円など)

有料老人ホーム、デイサービス、訪問介護などを運営する会社です。SOMPOケアやベネッセスタイルケア、ニチイグループ、チャーム・ケア・コーポレーションなどの大手があります。全国展開する会社では、総合職として入社し、施設長や本部の仕事を目指すコースもあります。

良いところ研修やキャリアの仕組みが整っている、本部や新規事業の仕事もある

大変なところ施設の稼働率や人手の確保が業績を左右する、転勤の可能性がある

医療・介護の周辺企業(医療IT、医療機器、調剤など)会社によって幅が大きい(エムスリー単体931万円など)

病院や介護施設を、製品やサービスで支える会社です。医療ITのエムスリー、医療機器や調剤の事業を持つシップヘルスケアHD、福祉用具や給食の会社などがあります。医療の現場に直接立たなくても、医療や介護にかかわれます。

良いところ医療の知識とビジネスの力の両方が身につく

大変なところ医療制度の変更で事業が大きく影響を受ける

代表的な会社・職場

独立行政法人(病院グループ)大手医療法人グループ公的医療機関公的医療機関(社会福祉法人)公立病院大手介護事業者有料老人ホーム運営在宅介護事業者医療IT医療機器・調剤・介護の複合グループ
国立病院機構 ›独立行政法人(病院グループ)

全国で多くの病院を運営する国の病院グループで、結核や重い障害など、ほかの病院では対応が難しい医療も担っています。

独立行政法人の給与水準として公表
徳洲会グループ大手医療法人グループ

全国に多くの病院や介護施設を持つ日本有数の医療グループで、救急医療や離島・へき地の医療にも力を入れています。

非上場のため有報の開示なし
日本赤十字社(赤十字病院)公的医療機関

全国の赤十字病院を運営し、災害時の救護活動も行っています。病院の開設者としては2025年3月末で91施設があります。

法人の給与規程による
済生会公的医療機関(社会福祉法人)

生活に困っている人の医療を支えることを目的に作られた団体で、全国に病院や福祉施設を持っています。

法人の給与規程による
自治体病院(都道府県立・市町村立病院)公立病院

地域の救急や小児・周産期医療など、地域に欠かせない医療を担う病院です。2025年3月末で市町村立586施設を含む769施設があります。

地方公務員の給与体系
SOMPOケア大手介護事業者

損害保険のSOMPOグループの介護会社で、有料老人ホームや訪問介護、デイサービスなどを全国で運営しています。

非上場(グループとしての開示)
ベネッセスタイルケア大手介護事業者

ベネッセグループの介護会社で、有料老人ホームや高齢者向け住宅、保育園などを運営しています。

非上場のため有報の開示なし
ニチイグループ(ニチイ学館)大手介護事業者

訪問介護やデイサービス、医療事務の受託、介護の資格講座などを手がけています。

非上場のため有報の開示なし
チャーム・ケア・コーポレーション有料老人ホーム運営

関西や首都圏を中心に、介護付き有料老人ホームを運営しています。

単体平均468万円(平均43.4歳、2025年6月期)
セントケア・ホールディング在宅介護事業者

訪問介護、訪問看護、訪問入浴など、自宅で暮らす人を支える在宅介護のサービスを全国で展開しています。

単体平均532万円(2025年3月期、持株会社)
エムスリー ›医療IT

医師向けの医療情報サイトを運営し、製薬会社の情報提供の支援や、病院・診療所向けのITサービスを提供しています。

単体平均931万円(平均34.7歳、2025年3月期)
シップヘルスケアホールディングス医療機器・調剤・介護の複合グループ

病院の建設や医療機器の導入支援、医療機器の販売、調剤薬局、介護施設の運営などを手がけるグループです。

単体平均854万円(2026年3月期、持株会社21人)

›がついた会社は、会社図鑑で詳しく解説しています。

どうやって稼いでいる?

患者 窓口で払う 病院・診療所 1点10円で計算 健康保険 保険料・公費 審査支払機関 内容を審査 3割 多くの人 請求 レセプト 支払い 支払い 国民医療費 48兆915億円(2023年度)の出どころ 保険料 50.2% 公費 37.5% 患者の負担など 12.3% 介護も同じしくみ 利用者は原則1〜3割を払う 残りは介護保険(保険料と公費が半分ずつ) 値段は国が決め、自由に値上げできない2024年度は民間病院の61.0%が営業赤字
医療の報酬は2年ごと、介護の報酬は3年ごとに見直されます

医療と介護のビジネスは、値段を国が決める「公定価格」で動いているのが最大の特徴です。病院が行う診察や検査、手術、薬には、国が決めた診療報酬の点数がついていて、1点10円で計算されます。患者は医療費の一部(多くの人は3割)を窓口で払い、残りは病院が健康保険の団体に請求して受け取ります。介護も同じように、国が決めた介護報酬で値段が決まり、利用者は原則1〜3割を払い、残りは介護保険から支払われます。そのため、病院や介護施設の収入は、何人の患者や利用者に、どんなサービスをどれだけ提供したかでほぼ決まり、自分たちで値上げすることはできません。物価や人件費が上がっても、報酬が上がらなければ利益が減るため、2年ごと(介護は3年ごと)の報酬改定が経営に大きな影響を与えます。帝国データバンクの調査では、2024年度に民間病院の61.0%が営業赤字でした。

1
診療報酬(健康保険からの支払い)

病院や診療所の収入の中心です。病院は毎月、診療の内容をレセプトにまとめて審査支払機関に請求し、健康保険の団体から支払いを受けます。2023年度の国民医療費48兆915億円の財源は、保険料が50.2%、国や地方の公費が37.5%、患者の負担などが12.3%でした。

2
患者の窓口負担

患者が病院の窓口で払うお金です。現役世代は原則3割、子どもや高齢者は年齢や所得によって1〜3割などと決まっています。医療費が高額になったときは、高額療養費制度で負担に上限が設けられています。

3
介護報酬(介護保険からの支払い)

介護施設や訪問介護の事業所の収入の中心です。介護保険の財源は、40歳以上の人が払う保険料と、国・都道府県・市町村の公費が半分ずつです。2024年度の介護費用は11兆9,381億円で、介護サービスの利用者は573万人でした。

4
自費診療・自費サービス

健康保険が使えない医療やサービスの収入です。たとえば、人間ドック、美容医療、差額ベッド代(個室の料金)、有料老人ホームの家賃や食費などです。値段を自由に決められるため、病院や介護会社の経営を支える大切な収入です。

5
国や自治体の補助金

救急医療やへき地の医療、感染症対策など、採算をとるのが難しいけれど地域に必要な医療には、国や自治体から補助金が出ます。公立病院には、自治体からの繰入金が入ることもあります。

6
周辺ビジネスの売上

医療機器、医薬品の卸、調剤薬局、給食、清掃、福祉用具のレンタル、医療ITなどの会社は、病院や介護施設、患者にサービスを売って収入を得ます。これらの会社の売上も、元をたどると多くが診療報酬や介護報酬から支払われています。

入ってからどうなっていく?

1〜3年目現場の仕事を覚える病院の事務職なら医事課の受付や会計、介護会社なら施設の介護職員や相談員として、現場の仕事を覚えます。資格職は国家試験に合格して、新人として研修を受けながら働きます。
4〜7年目専門性と資格を積むレセプトの点検や入院の会計、介護福祉士やケアマネジャーの資格取得など、専門性を高めます。後輩の指導や、チームのリーダーを任されることも増えます。
8〜15年目部署や施設をまとめる医事課長、経営企画の担当、介護施設の副施設長や施設長として、部署や施設の運営を担います。本部の人事や事業開発に移る人もいます。
15〜25年目病院・法人の経営の中心へ事務部長や事務長、複数の施設をまとめるエリアマネージャー、法人本部の部長などとして、経営の判断を担います。
転職・独立のパターンほかの病院やコンサル、独立へ病院の事務職はほかの病院の事務長や医療経営コンサルタントに、介護職は施設長や独立して訪問介護やデイサービスの事業所を開く道があります。医療ITや医療機器の会社に移る人も多いです。
50代〜法人の理事・地域医療の担い手医療法人や社会福祉法人の理事、介護会社の役員として、法人全体の方針を決めます。地域の医療や介護の仕組みづくりに、行政と一緒にかかわる人もいます。

病院にお金が入るまで(外来の受診からレセプトまで)

受診 した日 翌月の 初め 約2か月 後 1 受付 保険証で保険の種類を確認 医療事務 2 診察・検査・処方 一つひとつに点数がつく 医師 3 会計 窓口負担(多くは3割) 医療事務 4 レセプトを作る 1か月分をまとめ、点検 医療事務 5 審査支払機関へ請求 認められない分は支払われない 6 入金と経営分析 残りの7割分などが入る 経営企画 病院にお金が入るのは、診療の約2か月後
外来の受診からレセプトまでの例
1
受付

患者が保険証を出して受付をします。医療事務が保険の種類を確認し、カルテを用意します。

2
診察・検査・処方

医師が診察し、必要な検査や薬を決めて電子カルテに入力します。一つひとつの医療行為に診療報酬の点数がつきます。

3
会計

医療事務が点数を計算し、患者に窓口負担(多くは3割)を払ってもらいます。

4
レセプトの作成(翌月初め)

1か月分の診療内容を患者ごとにまとめてレセプトを作り、病名と診療内容の組み合わせに誤りがないかを点検します。

5
審査支払機関へ請求

レセプトを審査支払機関に送ります。内容が審査され、認められなかった分は支払われません。

6
入金と経営分析

診療の約2か月後に、残りの7割分などが病院に支払われます。経営企画はこのデータを分析して、次の経営の作戦を立てます。

医療・介護(病院経営・介護事業・医療法人)のある1日

8:30

(中規模病院の経営企画の担当者の場合)出勤して、前日の入院患者数、空いているベッドの数、救急車の受け入れ件数を確認します。

9:00

朝の幹部会議に出席し、院長や看護部長、事務長と、今月の患者数と収入の見込みを共有します。

10:30

整形外科の医師と面談し、手術の件数を増やすための手術室の使い方を相談します。

12:00

昼休み。病院の職員食堂で昼食をとります。

13:00

次の診療報酬改定の資料を読み込み、新しく取れそうな加算の条件を整理します。

14:30

新しいMRIの購入について、メーカーの見積もりと、患者数の見込みから投資の回収期間を計算します。

16:00

地域の介護施設や診療所との連携会議に出席し、退院した患者の受け入れについて話し合います。

17:30

理事会に出す資料をまとめて退勤。介護施設や病棟で働く職員は、交代制の夜勤や早番・遅番の勤務があります。

もっと知りたい人へ

そもそも医療・介護業界とは

医療・介護業界は、病気やけがを治す医療と、年をとったり障害があったりして日常生活に支えが必要な人を手助けする介護を提供する業界です。厚生労働省によると、2025年3月末時点で全国に病院が8,044施設、一般診療所が10万5,208施設、歯科診療所が6万5,933施設あります。2023年度の国民医療費は48兆915億円で、国民1人あたり38万6,700円、そのうち65歳以上の人の分が60.1%を占めています。介護では、2024年度の介護費用が11兆9,381億円、介護サービスの利用者が573万人で、いずれも増え続けています。

医療と介護の違い

医療は、病気やけがを診断し、治療して治すことを目的にしています。介護は、病気が治ったあとも続く生活の不自由さを手助けし、その人らしい暮らしを続けられるようにすることを目的にしています。たとえば、脳梗塞で倒れた人は、病院で治療を受けたあと、リハビリを経て、自宅や介護施設で介護を受けながら暮らすことになります。

国民皆保険という仕組み

日本では、すべての人が何らかの公的な医療保険に入る国民皆保険の仕組みがあります。会社員は健康保険組合や協会けんぽ、自営業の人は国民健康保険、75歳以上の人は後期高齢者医療制度に入ります。そのおかげで、誰でも保険証一枚で全国のどの病院でも、比較的安い負担で医療を受けられます。

高齢化と医療・介護の需要

1人あたりの医療費は、65歳以上が79万7,200円、65歳未満が21万8,000円と、高齢になるほど多くなります(2023年度)。高齢者が増えることで医療と介護の需要は増え続け、厚生労働省は介護職員が2026年度に約240万人、2040年度に約272万人必要になると見込んでいます(2022年度は約215万人)。

お金の流れ:診療報酬と介護報酬のしくみ

医療と介護のお金の流れの中心は、国が決める診療報酬と介護報酬です。診療報酬は、診察、検査、手術、薬など一つひとつの医療行為に点数をつけたもので、1点10円で計算されます。たとえば、病院で診察と血液検査を受けて合計1,000点なら医療費は1万円で、3割負担の人は窓口で3,000円を払い、残りの7,000円は病院が健康保険に請求します。介護報酬も同じように、サービスの種類や時間ごとに単位が決められています。どちらも、物価や人件費の変化、国の財政を考えて、診療報酬は原則2年ごと、介護報酬は原則3年ごとに見直されます。

国民医療費の財源

2023年度の国民医療費の財源は、保険料が50.2%(会社などの事業主22.0%、加入者本人28.2%)、公費が37.5%(国24.8%、地方12.7%)、患者の窓口負担などが12.3%でした。つまり、医療費の大部分は、働く人と会社が払う保険料と、税金でまかなわれています。

診療報酬改定のインパクト

2026年度の診療報酬改定では、医師や看護師などの人件費にあてる本体部分を平均3.09%引き上げ、薬の値段などを0.87%引き下げて、全体で2.22%のプラスとなりました。全体がプラスになるのは2014年度以来12年ぶりです。こうした改定率は、病院の収入に直結するため、業界全体が注目しています。

介護報酬と処遇改善

2024年度の介護報酬改定では、全体で1.59%のプラスとなり、そのうち0.98%分は介護職員の給料の引き上げにあてられました。介護の仕事の給料は他の業界より低いと言われてきたため、国は処遇改善加算という仕組みで、介護報酬の一部を職員の給料に回すよう事業所に求めています。

病院経営の現実

病院は、公定価格で収入が決まる一方、医師や看護師などの人件費、医療機器、薬、建物の維持費など大きな費用がかかります。病院の費用の半分以上は人件費と言われ、物価や賃金が上がっても診療報酬が十分に上がらないと、すぐに赤字になります。帝国データバンクの調査では、2024年度に民間病院の61.0%が営業赤字で、平均の営業利益率はマイナス1.76%、債務超過の病院は13.6%にのぼりました。そのため、病院は地域の他の病院と役割を分担したり、病床の数や種類を見直したり、グループに入ったりして、経営を立て直そうとしています。

病床の機能と地域医療構想

病院のベッド(病床)には、手術直後などの重い患者を診る高度急性期・急性期、リハビリをして自宅に帰る準備をする回復期、長く療養が必要な人のための慢性期などの種類があります。都道府県は、地域でどの種類のベッドがどれだけ必要かを見積もる地域医療構想を作り、病院同士で役割を分けるよう話し合いを進めています。

医療法人とは

医療法人は、病院や診療所を運営するために作られる法人で、株式会社のように利益を株主に配ることはできません。2025年3月末で、病院の約70%にあたる5,617施設を医療法人が運営しています。理事長は原則として医師か歯科医師で、多くの医療法人が地域に根ざした中小規模の病院を運営しています。

医師の働き方改革

2024年4月から、勤務医の時間外労働に上限が設けられました。これまで長時間労働で支えられてきた病院では、医師の仕事の一部を看護師や医師事務作業補助者に任せたり、ITで効率化したりする取り組みが進んでいます。病院の経営や事務の工夫が、医師の働き方にも直結するようになっています。

介護事業のしくみ

介護保険のサービスを受けるには、市町村に申請して要介護・要支援の認定を受けます。認定を受けた人は、ケアマネジャーが作るケアプランにもとづいて、訪問介護、デイサービス、ショートステイ、福祉用具のレンタル、施設への入居などのサービスを、原則1〜3割の自己負担で利用できます。2024年度に最も多く使われたサービスは、居宅介護支援(ケアプランの作成)の399万人、福祉用具の貸与の295万人、デイサービス(通所介護)の168万人、訪問介護の161万人でした。介護事業は、社会福祉法人、株式会社、医療法人、NPO法人など、さまざまな組織が運営しています。

施設サービスと在宅サービス

介護のサービスは、施設に入って暮らす施設サービスと、自宅で暮らしながら受ける在宅サービスに分かれます。施設には、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護付き有料老人ホーム、グループホームなどがあります。在宅サービスには、ホームヘルパーが家に来る訪問介護、日帰りで施設に通うデイサービス、看護師が家に来る訪問看護などがあります。

介護事業者の経営の厳しさ

介護の事業は、人手不足と物価の上昇、そして公定価格の介護報酬のはざまで、経営が厳しくなっている事業者が増えています。東京商工リサーチによると、2025年度の医療・福祉事業の倒産は478件と過去最多で、そのうち老人福祉・介護事業が182件と最も多くなりました。特に小規模な訪問介護の事業所は、ヘルパーの確保が難しく、苦しい状況にあります。

外国人の介護人材

人手不足を補うため、介護の現場では外国人の職員も増えています。経済連携協定(EPA)、技能実習、特定技能、在留資格「介護」など、いくつかの制度で外国人が介護の仕事に就いています。外国人の職員と一緒に働き、言葉や文化の違いを支え合うことも、これからの介護の現場では当たり前になっていきます。

なるためのルート

医療・介護業界への入り方は、仕事の種類によって大きく違います。医師、看護師、薬剤師、理学療法士などの資格職は、大学や専門学校で学び、国家試験に合格する必要があります。介護職員は、資格がなくても働き始められ、働きながら介護職員初任者研修や実務者研修を受け、介護福祉士の国家試験に挑戦できます。病院の事務職や経営企画、介護会社の本部職は、学部を問わず採用されることが多く、経済学部、経営学部、法学部などの出身者が多く働いています。医療経営や医療福祉を専門に学べる学部・学科もあります。

  1. 高校で進む方向を決める医師や看護師などの資格職を目指すなら理系の科目、病院の経営や事務を目指すなら文系でも問題ありません。どちらも、人と接することへの関心が大切です。
  2. 進学先を選ぶ資格職は医学部や看護学部、医療系の専門学校、経営や事務の仕事を目指すなら経済・経営・法学部、医療福祉経営の学科などを選びます。介護職は高校卒業後すぐに働き始めることもできます。
  3. 実習やボランティアで現場を知る病院や介護施設のボランティア、介護の職場体験、医療事務のアルバイトなどで、現場の雰囲気を知ります。
  4. 国家試験・就職活動資格職は国家試験に合格し、病院や施設に就職します。事務職や本部職は、エントリーシートと面接で選考を受けます。
  5. 働きながら専門性を高める介護福祉士やケアマネジャー、医療事務の資格、医療経営の知識などを身につけ、管理職や経営職を目指します。
資格がなくても働ける仕事

病院の受付や医療事務、介護職員、介護施設の事務、医療機器や福祉用具の営業、医療ITのエンジニアなどは、入る時点で国家資格がなくても働けます。働きながら関連する資格を取り、専門性を高めていく人が多いです。

医療経営を学ぶ

大学には、医療福祉経営学科や医療マネジメント学科など、病院や介護施設の経営を専門に学べる学科があります。社会人になってから、大学院で医療経営(ヘルスケアMBAなど)を学ぶ人もいます。

試験・選考の詳細

医療・介護業界の資格職には国家試験があり、それぞれ受験資格や合格率が違います(詳しくは医師、看護師、介護福祉士などの各ページで紹介しています)。資格がなくても就ける病院の事務職や介護会社の総合職の選考は、エントリーシート、適性検査、面接が一般的です。病院の事務職では、医療制度への関心や、医師や看護師などさまざまな職種と協力できるかが見られます。自治体病院の事務職は、地方公務員試験を受けて採用されることが多いです。介護職では、人柄や介護の仕事への思いが重視され、資格がなくても採用されることがほとんどです。

医療事務の資格

医療事務には国家資格はなく、民間の資格がいくつかあります。代表的なものに診療報酬請求事務能力認定試験があり、レセプトの作成の知識と技術が問われます。必須ではありませんが、持っていると就職や仕事で知識の証明になります。

介護の資格のステップ

介護の資格は、介護職員初任者研修(約130時間)、実務者研修(約450時間)、介護福祉士(国家資格)、ケアマネジャー(介護支援専門員)とステップアップしていくのが一般的です。介護福祉士の国家試験は、実務経験3年以上と実務者研修の修了などで受験できます。

年収のリアル

医療・介護業界の年収は、職種によって大きく違います。医師は1,000万円を超えることが多く、看護師の平均年収は約525万円(令和7年賃金構造基本統計調査)です。介護職員は、介護福祉士を持つ人で月約35.0万円(2024年9月、賞与などを月にならした額を含む)で、年収にすると約420万円が目安です。病院の事務職は、法人の規模や地域によって差がありますが、300万〜500万円前後から始まり、管理職や事務長になると上がります。収入が国の報酬で決まるため、業界全体として給料を大きく上げにくいという構造的な課題があります。

介護職員の給料は上がっているのか

国は2009年ごろから介護職員の給料を上げる仕組みを段階的に導入し、2024年度の介護報酬改定でも処遇改善のための引き上げを行いました。2024年9月の介護職員の平均給与は前年より約1.4万円上がっています。それでも全産業の平均と比べるとまだ差があり、さらなる引き上げが議論されています。

夜勤手当や資格手当

病院や介護施設では、夜勤の回数に応じた夜勤手当や、資格を持っている人への資格手当がつくことが多く、同じ職場でも働き方によって年収が変わります。

やりがい

医療・介護の仕事の最大のやりがいは、人の命と暮らしを直接支えられることです。病気が治って退院していく患者や、介護を受けながら笑顔で過ごす高齢者の姿を見ることは、何よりの喜びになります。病院の経営や事務の仕事でも、自分の工夫で病院が地域に必要な医療を続けられるようになったとき、大きな手ごたえを感じられます。高齢化が進む日本で、ますます必要とされる仕事であり、景気に左右されにくい安定した需要があります。

ありがとうが直接届く

介護の現場では、利用者やその家族から直接「ありがとう」と言われる場面がたくさんあります。毎日の小さな手助けの積み重ねが、その人の人生の最後の時間を豊かにすることにつながります。

地域の医療を守る経営

赤字の病院を立て直し、地域の救急医療や小児医療を守ることは、多くの人の命を守ることにつながります。医師ではなくても、経営の力で医療を支えられることは、病院の事務職や経営企画の大きなやりがいです。

大変なこと・きついこと

医療や介護の現場は、人の命や生活にかかわるため、責任が重く、ミスが許されない緊張感があります。病院や介護施設は24時間365日動いているため、夜勤や早番・遅番の交代勤務があり、生活のリズムが不規則になりやすいです。介護の仕事では、入浴や移動の介助など体力を使う場面も多く、腰を痛める人もいます。人手不足のため一人ひとりの負担が大きくなりがちで、経営の面では、診療報酬や介護報酬の改定によって収入が左右される難しさがあります。

人の死と向き合う

医療や介護の現場では、患者や利用者の死に立ち会うことがあります。長く関わった人とのお別れは、精神的につらいものです。チームで支え合い、気持ちを整理する時間を持つことが大切です。

経営と理想のはざまで

病院や介護施設の経営では、「もっと手厚いケアをしたい」という思いと、「赤字にならないようにしなければならない」という現実の間で悩むことがあります。限られた人とお金で、どうすれば質を保てるかを考え続ける力が求められます。

向いている人

人の役に立ちたいという気持ちが強く、相手の気持ちに寄り添える人に向いています。医療や介護の現場では、さまざまな職種の人がチームで働くため、周りの人と協力し、情報をきちんと共有できることが大切です。病院の経営や事務の仕事では、数字に強く、制度のルールをきちんと理解できる人、医師や看護師などの専門職と対等に話し合える人が活躍しています。体力と、つらいことがあっても気持ちを切り替えられる心の強さも必要です。

向いている人の特徴

お年寄りや小さな子どもと話すのが好きな人、困っている人を見るとつい手を貸したくなる人は、医療や介護の現場に向いています。また、社会の仕組みに興味があり、どうすれば医療や介護を持続できるかを考えるのが好きな人は、経営や制度にかかわる仕事に向いています。

気をつけたいこと

医療や介護の仕事は、思っていた以上に体力と心のエネルギーを使います。高校生のうちにボランティアや職場体験をして、実際の仕事に触れておくと、入ってからのギャップを減らせます。

高校生のうちにできること

まず、病院や介護施設のボランティアや職場体験に参加してみましょう。多くの介護施設では、高校生のボランティアを受け入れています。家族が病院にかかったときに、会計の明細書や領収書を見てみると、診療報酬の点数がどのようについているかがわかります。医療や介護の制度は、政治・経済や現代社会の授業で学ぶ社会保障ともつながっています。医療系の資格職を目指す人は、生物や化学をしっかり学んでおくとよいでしょう。

医療費の明細を見てみる

病院の領収書には、初診料、検査料、投薬料などの項目ごとに点数が書かれています。1点が10円で、そのうち自分が何割を払っているかを計算してみると、医療のお金の流れが実感できます。

家族やまわりの人の話を聞く

祖父母が介護サービスを使っていたり、家族が病院で働いていたりする人は、話を聞いてみましょう。ケアマネジャーやホームヘルパーがどんな仕事をしているのか、実際の様子を知ることができます。

代表的な会社・職場

医療・介護業界の職場は、全国の病院、診療所、介護施設、訪問介護の事業所など、どの地域にもあります。病院を運営する組織には、医療法人、国立病院機構などの国の機関、都道府県や市町村、日本赤十字社や済生会などの公的な団体、大学などがあります。介護の分野では、社会福祉法人のほか、SOMPOケア、ベネッセスタイルケア、ニチイグループなどの大手の会社が全国で施設を運営しています。医療ITや医療機器、調剤薬局、福祉用具など、周辺の企業も多くあります。

病院の開設者の内訳

2025年3月末の病院8,044施設のうち、医療法人が5,617施設、都道府県・市町村が769施設、国の機関や独立行政法人などが298施設、日本赤十字社が91施設、済生会が83施設、厚生連が95施設です。病床数で見ると、国や公的な病院も大きな割合を占めています。

地元で働ける業界

病院や介護施設はどの地域にもあるため、地元で働き続けたい人にとって選択肢の多い業界です。地方では、地域の中核病院や社会福祉法人が、地元で最大級の雇用先になっていることも珍しくありません。

これからの医療・介護

医療・介護業界は、高齢者の増加による需要の拡大と、働く人の不足という二つの大きな課題に向き合っています。団塊の世代がすべて75歳以上になった2025年を過ぎ、次は高齢者の数がピークに近づく2040年ごろに向けて、医療と介護の仕組みを持続させることが求められています。そのため、ITやロボットを使って現場の負担を減らす取り組み、病院同士の役割分担や統合、医療と介護の連携を進める地域包括ケアシステムの整備などが進められています。経営や制度、ITの知識を持った人材が、これまで以上に必要とされています。

医療DXと介護テック

マイナ保険証、電子処方箋、オンライン診療など、医療のデジタル化(医療DX)が進んでいます。介護の現場でも、見守りセンサーや介護記録のアプリ、移乗を助けるロボットなどを使って、職員の負担を減らす取り組みが広がっています。

地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムは、高齢者が住み慣れた地域で、医療、介護、予防、住まい、生活支援を一体で受けられるようにする仕組みです。病院、診療所、介護事業所、自治体が連携し、退院後も切れ目なく支えることが目指されています。

よくある質問

医療や介護の仕事は、資格がないとできませんか?

資格がなくてもできる仕事はたくさんあります。病院の受付や医療事務、経営企画、介護職員、介護施設の事務、介護会社の本部、医療ITや医療機器の会社などです。介護職員は、資格がなくても働き始め、働きながら資格を取ることができます。

病院の経営をするのは医師ですか?

医療法人の理事長は原則として医師か歯科医師ですが、実際の経営の多くは、事務長や経営企画の担当者など、医師ではない事務職員が支えています。病院の経営には、会計や制度、データ分析の専門家が欠かせません。

診療報酬とは何ですか?

病院や診療所が行う診察、検査、手術、薬などの医療行為の値段で、国が決めています。1点10円で計算され、患者はその一部を窓口で払い、残りは病院が健康保険に請求して受け取ります。原則2年ごとに見直されます。

病院は儲かっているのですか?

厳しい病院が多いです。帝国データバンクの調査では、2024年度に民間病院の61.0%が営業赤字でした。物価や人件費が上がっても、国が決める診療報酬が十分に上がらないと、収入が増えないためです。

介護の仕事の給料は低いのですか?

他の業界と比べると低めと言われてきましたが、国は介護報酬で給料の引き上げを続けています。2024年9月の介護福祉士を持つ介護職員の平均給与は月約35.0万円(賞与などを月にならした額を含む)でした。施設長などの管理職になると、さらに上がります。

医療事務はどんな仕事ですか?

病院の受付、会計、そしてレセプト(診療報酬明細書)を作って健康保険に請求する仕事です。病院の収入の入り口を担う大切な仕事で、資格がなくても始められます。

文系でも医療業界で働けますか?

働けます。病院の事務職や経営企画、介護会社の本部、医療機器や医療ITの会社の営業など、文系の出身者が活躍している仕事は多くあります。医療福祉経営を学べる文系の学科もあります。

介護業界はこれからも人が必要ですか?

必要です。厚生労働省は、介護職員が2022年度の約215万人から、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人必要になると見込んでいます。

医療法人と株式会社は何が違いますか?

医療法人は病院や診療所を運営するための法人で、利益を株主のように配ることはできません。株式会社は利益を株主に配ることができ、介護の分野では有料老人ホームやデイサービスなどを運営しています。一方、病院の運営は原則として株式会社には認められていません。

この分野のことば

年収について:看護師は厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」による目安(524万7,200円、平均42.1歳)。介護職員は厚生労働省「令和6年度介護従事者処遇状況等調査」で介護福祉士を持つ介護職員の平均給与額が月約35.0万円(賞与などを月にならした額を含む)、これを12倍した目安です。上場の介護・医療関連企業の単体平均年間給与は、チャーム・ケア・コーポレーション468万円(平均43.4歳、2025年6月期)、セントケア・ホールディング532万円(2025年3月期、持株会社191人)、シップヘルスケアHD 854万円(2026年3月期、持株会社21人)、エムスリー931万円(平均34.7歳、2025年3月期)。病院の事務職の給与は法人ごとの差が大きく、まとまった公的統計は少ないです。

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